草模様



〔昭和49年 高校3年生の頃の話〕

高校を卒業した記念に
仲の良かった友達3人と〔男ばかり〕
卒業旅行に
行った時の話です。

行き先は京都、奈良でした。

わざわざ
女性雑誌、アンアン、ノンノ
を買ってきて、
僕等四人は旅行先を検討した。


京都、奈良の旅行コースを選んだ理由は
きっと、 何か
皆、下心があったのだろう。

純粋な気持ちで
京都、奈良に
憧れていたのは
僕だけだったような
気がする。〔笑〕


とにかく
アンアン、ノンノを信じて
僕等四人組は
京都、奈良の旅にでた。
  


貧乏旅行だった。
ユースホステルを利用して
宿泊流れ旅。

奈良では
轟ユースという
旧い木造三階建ての
ユースホステルで泊まった。

泊まり客は僕等だけだった。
ペアレントの人は
おばあさん一人だけだった。

無口なおばあさんでしたが
親切なひとであった。

夜、寝る前に
豆炭式のアンカを
ひとり、一個づつ配ってくれたのが
とても嬉しかった。


さて
そのユースホステルには
風呂が無かった。

近くの銭湯をペアレントのおばあさんに
教えてもらい
僕等は銭湯に出掛けた。

銭湯にいくのは
久しぶりのことなので
皆、嬉々としていた。

銭湯には先客が二、三人いた。

僕は風呂.に入る時
メガネをはずすのが常であった。

その時もはずして
ガラス戸を開け風呂場に入った。

湯気がもうもうとして
視界は最悪だった。

湯殿に入ろうとして
左足からはいり
右足も入れようとした時

「ゴツン」

という衝撃音が聞こえた。

「ん、何か、当たったな。」

思って振り返ると
人の頭があった。

「しまった。人がいたんだ。」

僕は右足で
この人の頭を蹴飛ばしてしまったのだ。

「すみません。」

僕は謝った。


しかし
蹴飛ばされた人は何もなかったかのように
黙って そのままじっと
眼をつぶって
湯につかっていた。

僕は怒られなかったので
助かったと思っていた。

僕は
その人の隣で
そのまま、じっと
湯につかり、くつろいでいた。

しばらくすると
洗い場の方から  声がした。

「兄キーィ。もう、いきましょ。」

「よしっ。」

と言ったかと思うと

隣の人が背中を見せて
勢いよく ザバーッと
立ち上がった。



僕は その時
見てはならないものを
見てしまった。


兄貴と呼ばれたその人の
背中には
真っ青な刺青が全体に
彫られていたのだった。


怖かったよー。




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